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トップページ「季節の一曲」 2022年, 2023年 ~ 8曲 ~
♪月に寄せる歌(歌劇「ルサルカ」より)♪
Song to the Moon from Rusalka (A. Dvořák/ Nanase) (3Flutes) MOS No.71 (2019)
空気が澄んでくる秋から冬への季節は、空にかかる月の美しさが心にしみる気がします。
ドヴォルジャークのオペラ『ルサルカ』は、欧州各地にある水の精伝説、つまり水の精が人間の王子に恋してしまうという幻想的な世界が描かれ、アンデルセンの人魚姫にも通じるストーリーですが、チェコ語で書かれているためか、演奏される機会はそう多くはありません。
ただこのアリア「月に寄せる歌」は、その旋律の美しさゆえに、器楽バージョンもいろいろ作られていて、言葉の壁を越えた名曲として、愛されているといえます。
有名な交響曲第9番「新世界から」や、スラブ舞曲などとも共通するような、独特の気分を楽しみたいところです。
演奏にあたっては、主旋律を取るパートが入れ替わるところをまずしっかり確認してください。歌の曲なので、メロディーがしっかりと浮き立つように。
3拍子で書かれていますが、ワルツのように受け取らず、伴奏部分の細かいシンコペーションの掛け合いを丁寧に処理してゆくと、スラブ系の独特のリズムの動きが前面に出てきます。
楽譜のFやコーダにある細かい動きは、フルートでないと出せない味わいです。水の匂いや異界に誘うような気分を意識すると、ちょっと異次元へワープするような不思議な感覚を楽しめるかもしれません。(「季節の一曲」2023年10月~12月)
♪ フルート・トリオのための「鱒」♪
Variations on "Die Forelle" (F. Schubert/ Nanase) (3Flutes) MOS No.68 (2018)
フルート三重奏は、シンプルな組み合わせにもかかわらず、実はとても大きい可能性を秘めていると思うのですが、その可能性に挑戦してみたくなったのが、この「鱒」です。
ベースになっているのは、ピアノ五重奏による「鱒」。
曲名を知らない人でも「ああ、あの曲」と思えるほどの耳なじみのよさは、まさにシューベルト自身の歌曲を題材にしている、いわば自作の「アレンジ作品」だから。
オーストリア中央部の風光明媚な土地で書かれたこの室内楽版は、キラキラした水の輝きや、鱒の元気のいい動きを感じるような、命の喜びに満ちた作品に思えます。
早々と世を去った(31歳)ことでも知られるシューベルトですが、この曲は、まるで物理的な時間とは別の次元での豊かな「生」を謳歌しているような。
このフルート版は、各パートそのものは音域も運指もさほど難しくないのですが、アンサンブルにまとめるのはちょっと気合がいるかもしれません。ぜひじっくり時間をかけて、それぞれのパートの役割を確かめ、意見交換しながら仕上げてみてください。
熱くなりすぎずに、演奏にゆとりが出てきた頃、音楽のなかできっと鱒が踊りだすことでしょう。(「季節の一曲」2023年7月~9月)
♪ 喜びのプレリュード♪
Prelude of Joy (Nanase) (2Flutes) MOS No.62 (2016)
プレリュード(前奏曲)という名の付く楽曲には、何か新たな始まりを予感するような気分を感じるものだと思います。それがどんな物語でも、まずは新たな歩みを祝福して力強く前に踏み出してみたくなるような。
この曲も、とある結婚式のために作曲・演奏したものですが(オリジナルはピアノソロ。原題「光のプレリュード」2006年)、高揚感や光あふれる華やぎのなかにありながらも、浮足立った感じの嬉しさよりも、もう少し覚悟を決めた感じの緊張感やおごそかさを伴った喜びを意識したことを、今も鮮明に思い出します。
そして私にとっては、この8年後(2014年)に旅立った亡き従姉の満面の笑顔に重なる曲。音楽は人と人とのつながりや思いが土壌になり、そこから芽吹き育ってゆくことを、今まで以上に強く実感し、彼女の3回忌の年に楽譜として出版するタイミングとなりました。
出だしのピアニッシモの質感が、全体の演奏の印象を大きく左右します。主旋律の部分に大きなスラーを書いていませんが、大きなフレーズのまとまりを意識するといいと思います。カデンツは自由に楽しんでください。楽譜のHから16分音符がたくさん出てきますが、2番と3番がしっかり合うことで完成度が上がってくると思います。
皆様にとって、新年度が喜び多いスタートでありますように。(「季節の一曲」2023年4~6月)
♪ ゴセックのガヴォット♪
Gavotte (François-Joseph Gossec/Nanase) (2Flutes) MOS No.50 (2012)
いろいろな編成の編曲があり、大変よく知られた曲ですが、ベルギー生まれのフランスの作曲家ゴセックが「フランス交響曲の父」と呼ばれる存在で、40曲を超える交響曲があり、後半生にはオペラにも心血を注ぎ、この「ガヴォット」がオペラ(ロジーヌ 1786年)の中の1曲であることを知る人はごく少数だと思います。
そして、1月生まれのゴセックが当時としては大変な長寿で、95歳まで生きて、パリ音楽院設立時から音楽教育の世界でも大きく貢献したことも知る人ぞ知る情報かもしれません。
こんな小さなかわいらしい印象の曲、ちょっとおどけた雰囲気もあってとっつきやすい曲の裏側には、壮大なストーリーがあるのですね。
フルート2本というシンプルな編成ですが、引き算アレンジの典型で、アーティキュレーションをしっかりとらえて演奏することで、思いがけない世界の広がりが期待できます。
主旋律を取るパートが頻繁に入れ替わりますので、そんなやり取りを面白がってくださると、楽しい演奏に仕上がると思います。(「季節の一曲」2023年 1月~3月)
♪ 連禱♪
Litanei Litanei auf das Fest Allerseelen (F. Schubert/ Nanase) (2Flutes) MOS No.68 (2018)
ハローウィーンはすっかり日本でも秋の一大イベントのようになってきました。仮装した子供たちが町を行き来する姿も見慣れた景色になりましたが、ハローウィーンが実は日本のお盆のように、死者を迎えてお祈りをするという儀式(万霊節)に由来していることはまだそんなに知られていないかもしれません。
連禱は、本来はカトリック教会での礼拝のスタイルを指し、互いに祈りの言葉を交わし合うことで、死者の安らかな眠りに祈りを捧げるものです。
そういう意味では、元々はこの曲も宗教音楽の意味合いが強くあると言えますが、実際はシューベルトの傑作のひとつとして、万霊節の時期ばかりでなく、いろいろな機会に演奏されることも多いようです。
挽歌のような悲しみにあふれた曲とは違って、短いながらも深い静けさに満ちた安らぎを感じさせる音楽として、我々日本人の感性にも訴えかけてくるような気がします。
楽譜のBの後半から、主旋律が交互に歌い交わすようにチェンジしていきますので、そのあたりの各パートの役割を、スコアを確認しながらまとめるとうまくいくと思います。
ちょっとホラー風のハローウィーンの仮装を楽しんだ後は、こんな曲で気持ちを静めて、しばしあちらの世界に思いを馳せてみてはいかがでしょう。(「季節の一曲」2022年10月~12月)
♪八月のねがい♪
A Wish in August (Nanase) (3Flutes) MOS No.71 (2019)
盛夏の灼けつくような陽射しの中で、誇らかに凛と咲き続ける宗旦木槿(そうたんむくげ)の花。白い花弁が無垢で清楚な分だけ、むしろ花の中心の紅色にはハッとするような秘めた妖艶さが漂うような…。
そんな女性になれたらいいなぁという内容の歌詞と共に、はるか昔に発表した曲が元になっています。
私にとっては、最初の主催公演のオープニングで緞帳が開く音を聞きながら、シンセサイザーで演奏したことがよみがえる縁の深い曲といえます。
その後歌詞の世界を少し離れて器楽への改編を試み、さらにフルート三重奏版に書き下ろしてからは、最初の木槿の花の絵画的なイメージよりも、もう少し「ねがい」のニュアンスが高まってきたと感じています。
八月は祈りの季節。旅立った魂と向き合い、「逝く」夏に思いを馳せるのは、日本人らしい季節の味わいかもしれません。
アンサンブルで演奏効果を上げるには、楽譜のEの部分でほんの一瞬バロック風になりますが、ここの処理の仕方で、大きく印象が変わってくるでしょう。音質やアーティキュレーションの処理を、この部分だけはっきり変えるようにするとうまくいくと思います。(「季節の一曲」2022年7月~9月)
♪マンマ♪
Mamma (C.A. Bixio /Nanase) (3Flutes) MOS No.53 (2013)
春になっていろいろな花が次々と咲き、新緑がまぶしくなる頃、カーネーションが店先に並ぶ「母の日」が巡ってきます。
「母」を歌い上げたこの曲は古いナポリ・カンツォーネで、第二次世界大戦の頃、イタリア軍の兵士たちの間でさかんに歌われたというエピソードがあるくらいですから、かれこれ80年くらい前から人々と共にあった歌と言えます。
遠くにいる母親を慕い讃えるという歌詞の内容を見ると、日本人にはそのストレートな感情表現がちょっと照れくさい気もしますが、音楽はカラッと突き抜けるような明るさのなかに、ちょっと切ない感じもあって、自然にその世界に入ってゆけるのではないかと思います。
演奏をまとめるには、やはりこのリズムの感じがしっかり決まることが不可欠だと思います。
テンポが遅くならないように、特に楽譜のAからCの部分で、伴奏部の冒頭が休符のところの処理、つまりは強めのシンコペーションがうまくいくと、ノリの良い流れができてきます。
また、特に前半は主旋律を取るパートが頻繁に変わるので、初めは合わせるのが難しく感じるかもしれませんが、それぞれの役割を面白がりながらまとめてみてください。
初夏の日差しのなかで、南イタリアの明るさを楽しんでいただければ幸いです。
(「マンマ」は Field work のページにも記載があります。)(「季節の一曲」2022年4月~6月)
♪コリア風デリカート♪ Delicato in the manner of Korea (Nanase) (3Flutes) MOS No.50(2012)
今では韓流というと、若者を中心としたアジアンな流行の先端のひとつになっていますが、この曲の原曲(ファゴットとピアノ)を書いた頃('93年)は、まだまだ韓国文化は知る人ぞ知る世界でした。
しかし、今も韓国の民俗音楽の伝統は民衆の間で確かに受け継がれており、その気質は人気ドラマやK-Popの底流を支えていると感じます。「韓国ってこういうところなんだ」「韓国人ってこういうふうに感じるんだ」と肌感覚で理解するような親しみ方が、情報化が進んだおかげで身近にできるようになりました。
この曲をコリアっぽく演奏するには?そう、フルートの伝統的な奏法や音楽のまとめ方のコツから一歩外へ踏み出した世界に挑戦することを意識すると、面白くなると思います。サムルノリやパンソリ、散調(さんじょう)などをご存知の方は、何となくそんな香りが感じられるかもしれませんが、曲の初めは落ち着いて、だんだん盛り上がってトランス状態へ向かうような、呪術的な音楽のイメージを持つといいと思います。
楽譜の(E)から、冒頭のテーマが再び出てきますが、ここを西洋音楽の繰り返しよりも変化を大きく意識して、細かい装飾音をうねるようなニュアンスにすると感じが出てきます。(I)からは3本でしっかり煽り合って、139小節の subito P が決まるとシャーマニズムの音楽らしくなります。
そして「デリカート」。人にも自分にもデリケートに接する時、優しさとそれを支えるエネルギーが必要ですよね。そう、生きることへのある覚悟を持った強さ。これもコリア風から我々が学ぶことかもしれませんね。(「季節の一曲」2022年1月~3月)
(「楽曲への思い 特別編」にも記載があります。)
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♪風のインテルメッツォ♪ Intermezzo of the Winds (Nanase) (2Flutes) MOS No.68 (2018)
インテルメッツォとは、間奏曲を意味します。
「間奏」というからには、前後にメインの曲があるような気がしますが、実際の間奏曲には、前後に曲が必ずしも存在するわけではなく、間奏という独特の存在感を意識していることも多くあります。
この曲には元々歌詞がついていて、一級河川の河川敷の情感を歌ったものでした。
二つの地域を分けて流れる川には、両側から風が流れ込んできて、風がちょっと不思議な動きをします。まるでそこへひととき逃れるようにやってきて、集まった風たちと共に舞いながら生まれ変わり、再び人々の群れの中へと帰ってゆくように。
息の楽器フルートには、そんな風たちの世界が似合うような気がします。
曲は3拍子のワルツで流れていきますが、一小節で大きな一拍として感じられるように意識すると、ダンスの動きの感じが出てきます。テンポや、演奏する場所の音の響き方、そしてアーティキュレーションのまとめ方で、驚くほど多彩な表情が出てくることを最近感じますが、これはフルートならではの面白さだなと思っています。
半音上がって転調してからが結構長いので、ここでもたつかずに「ノリよく」まとめると、かっこいい演奏になると思います。
たくさんの風を感じながら演奏して頂けると嬉しいです。(「季節の一曲」2021年10月~12月)
♪シェリト・リンド♪
Cielito Lindo (Q.M.y Cortés/ Nanase) (2Flutes) MOS No.62 (2016)
メキシコの夏の空、青く澄んだ空の下で陽気に過ごすひとときを感じるような、夏らしい開放感あふれる曲。
ラテン・ポップスとしてもおなじみの曲ですが、実は19世紀の終わりに作られている意外と古い曲です。
それだけ長い年月、愛され歌い継がれてきたということですね。
シェリト・リンドとは、美しい空(天国も表す)という意味ですが、この曲の歌詞では、美しい人、素敵な人という呼びかけのように使われている恋の歌です。
楽譜の冒頭の短い序奏は、そんな物語の幕開けといった感じでまとめると、うまくつながると思います。
Dからの転調したところからは、さらに空高く舞い上がる感じになるといいなと思っていますので、ここに来るまでに吹きくたびれてしまわないように、うまく配分してみてください。
ラストは、思いっきりピアニッシモにして音量を下げて始めると、ドラマチックにまとまると思います。
気分はテキーラで乾杯…そんな日が遠からず訪れることを祈りたいものです。(「季節の一曲」2021年7月~9月)
♪辻音楽師 (ストリートオルガン弾きは歌う)♪ The Organ-Glinder Sings Op.39-24(23) (P.Tchaikovski/ Nanase) (2Flutes+Picc.) MOS No.23 (2003)
チャイコフスキーの子供向けのピアノ小品集「こどものためのアルバム」は、子供の内面の宇宙がちりばめられた、おもちゃ箱のような曲集です。この「辻音楽師」は、旋律の美しさの中に物語を感じる作品なので、ぜひ現場で使って頂きたく思い、アレンジしました。フルートだけでもできますが、ピッコロを用意できれば、ぐっと世界が広がります。
元々器楽曲は言葉を伴わないので、具体的なイメージを直接示すことはできませんが、一緒に演奏してきた読響アンサンブルでは、こんな語りと組み合わせて、ちょっとした劇仕立てにして、学校や街の身近なコンサートで演奏しました。
それぞれのグループで物語を考えて、新たな世界を広げて頂けると嬉しいです。
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いつもの土曜日。
ストリートオルガンが、広場のかたすみにやってきました。
おじいさんがハンドルを回して、さあ、素敵な演奏のはじまり、はじまり。
子どもたちは、大好きなおじいさんの楽器のまわりに、かけ足で集まってきます。
高い音、低い音、やさしい音、ちょっぴりこわい音、
いろいろな音がするなぁ。
わたしにも、弾けるかしら。ぼく、弾いてみたいなぁ。
おじいさんは疲れたので、ひと休みします。ついうとうとしていると…
さっき一番前で、いっしょうけんめい聴いていた子どもが飛び出してきて、
オルガンのハンドルに手をかけ…
もう、はやる気持ちをおさえられません。
夢中でハンドルを、力いっぱい回します。
おじいさんはオルガンの音で目を覚まし、
子どものそばへやってきます。
しまった、見つかっちゃった!大好きなおじいさん、おこってるかな…。
でも、やさしいおじいさんはおこりません。
そんなにこの楽器が好きなのかい?じゃあ、いっしょに弾いてみよう。
ほら、こうすると、いい音がするだろう?
おじいさんは、子どもの手に自分の手を重ねて、
二人でハンドルを回します。
出てくる、出てくる、素敵な音。
子どもは、とってもしあわせな気持ちでした。 Copyright (C) Ayuko Nanase
(「季節の一曲」2021年4月~6月)
♪マリオネット♪ Die Marionetten (E.Rhode/ Nanase) (2Flutes) MOS No.59 (2015)
19世紀にドイツ東部で活躍した作曲家ローデによる、シンプルで楽しいピアノ曲が原曲です。ローデの作品で日本版が出ているのは、この曲だけのようですが、ピアノを習った方には、「あやつり人形」のタイトルで、もしかしたら発表会などで弾いた記憶があるかもしれません。
ドイツは欧州のなかでも特に人形芝居が盛んなようで、専用の芝居小屋もあり、古き良き民衆の楽しみだったようです。その内容は子供向けのものばかりでなく、結構シリアスな大人向けの演目もあるようで、市民の心にしっかり根付いている文化という感じもします。
このフルート二重奏版では、旋律のかけあいが頻繁に出てきます。中低音の鳴りづらい音域が主旋律になるところには、大きめのデュナーミクを記してありますので、それぞれの役割をスコアを見て確かめながら、アンサンブルをまとめてみてください。
快活なテンポをしっかり保つようにして、カデンツは、リラックスしてちょっとおどけた感じにすると楽しいと思います。
聴いてくださる方々は、どんな人形を思い浮かべるかな…そんなことを想像すると、ワクワクしてきませんか? (「季節の一曲」2021年1月~3月)
♪シューベルトのセレナーデ♪ Ständchen(F.Schubert/Nanase) (2Flutes) MOS N0.20 (2002)
セレナーデとは元々、恋人のいる部屋の窓の下で愛をこめて演奏する音楽のこと。もちろんこの窓は、現代の都会の住宅のそれを指すわけではなく、はるか昔の時代の住まいでのワンシーンであり、19世紀前半に作られたこの曲も、思いを寄せる女性に、伴奏楽器を手にした男性が歌いながら切々と恋心を訴えるという内容になっています。
セレナーデには「窓」のイメージが必ずあり、演奏する場所は家の外、つまり屋外です。たくさんの聴衆のためではなく、恋人だけに向かってひそやかに奏でる音楽。こんなシチュエーションが、この曲の背景にあります。
演奏をまとめるに当たっては、大変よく知られた主旋律のフレーズを、細切れにならないように自然に歌うことが、やはり何より大切になってくると思います。それを支えるのは、伴奏楽器のニュアンスをこめた、相手方のパート。スタッカートの連続をきれいに決めるのは、思いのほか難しいものですが、楽譜のBやEなどに出てくる冒頭のテヌートの処理の仕方をうまくつかむと、リズムの流れができてくると思います。Fからの盛り上がるところは、さまざまなやり方があると思いますが、ここが決まると曲全体の質感がぐっと上がる感じになるでしょう。
秋の夜長に、こんな世界へ音楽で飛んでゆけたら素敵だなぁと…今のような日常のなかでも、ふと気持ちが軽くなるひとときになればと願っています。(「季節の一曲」2020年10月~12月)
♪浜辺の歌♪ Hamabe No Uta (T. Narita/ Nanase) (2Flutes) MOS No.26 (2004)
この歌が作られてから、もう100年以上が経ちます。文語体で書かれている歌詞ながら、今も年代を問わず人々の心に寄り添い続ける、日本を代表する愛唱歌のひとつと言えると思います。西洋音楽のエッセンスが当時の日本人に新鮮だった時代、この美しく覚えやすいメロディーと、どこか懐かしい情感をたたえた作風からは、作曲者成田為三が、日本の原風景を心の奥深くに持っていて、それが自然に音楽ににじみ出ているように感じます。
この編曲についても、原曲にある日本人の得意とする情感が素直に奏でられるように、ということを意識しました。とは言っても、音楽のスタイルや楽器はやはり西洋のものなので、そこをきちっと踏まえること、つまり音楽の約束事をしっかり確認しながらまとめることが大切だと思います。
具体的には、スラーや休符などのアーティキュレーションを丁寧に吹き分けること、特にこの曲では伴奏部に細かい音がたくさん出てきますから、その部分を力まずにさらっとまとめられると、ぐっと質感が上がってくると思われます。
寄せては返す波が、気持ちの動きに寄り添ってくれるひととき…そんな音楽になるといいなぁと願っています。(「季節の一曲」2020年7月~9月)
♪フランス人形♪ French Doll (W. Gillock/ Nanase) (Flute Solo) MOS No.16 (2001)
弾きやすくて洒落たピアノの小品をたくさん書いた、アメリカ人ギロック(1917~1993) の作品の中で、最も愛されている曲の一つがこの「フランス人形」かもしれません。
ジャズ発祥の地と言われるニューオリンズに拠点を構えていた頃の、まさに円熟期といえる時代の作品です。ニューオリンズといえば、フランス移民の町。そんなフランスの香りにインスピレーションを得たのかもしれません。原曲はわずか34小節、そのなかにオルゴール人形の動きを感じながら、一瞬、日常を離れた世界に飛んでいけるような魅力があります。
ギロックの作品に、フルートと相性のいいものがあると思い始めた頃、初めて無伴奏フルートの編曲作品を書いたのが、この曲です('91年)。フルート1本だけというのは、実際に出てくる音が少ない分、逆に音符の裏(「行間」のような感じ)にたくさん情報があり、それとどう向き合うかが、最大の面白さと難しさであると、私は考えます。一対一で自分と向き合う感じは、時に厳しいものですが、優れたアンサンブルも実は、この「個と向き合う作業」がきっちりできた上で初めて実現できるものです。
具体的には、アーティキュレーションを丁寧に吹き分けること、33小節からの変奏の部分でもたつかずに、軽やかにリズムが感じられるようにすることがポイントかもしれません。
今、30年近く前に書いた自分の譜面と向き合うと、「若いな、元気だな」とも思いますが(笑)、演奏者の皆様も、それぞれの「今」の音楽と向き合って下さると嬉しいです。(「季節の一曲」2020年4月~6月)
♪ヤルネフェルトの子守歌♪ Berceuse (A.Järnefelt/Nanase) (2Flutes) MOS No.35( 2007)
寒さが厳しくなるこの時期、北欧フィンランドのこんな調べはいかがでしょう。ちょっと物悲しくて、その情感はまるで北欧の森と湖の大気が香り立つような感じ…。
フィンランドが世界に誇る大作曲家シベリウスの義兄にあたる、アルマス・ヤルネフェルトによる弦楽合奏の美しい小品ですが、最近はいろいろな楽器に編曲されて演奏される機会も増えているようです。
原曲が短いので、フィンランドの民族音楽をちょっと添えてみました。この楽譜のDからの5拍子の部分がそれで(伝承曲「カレワラの調べ」)、民族楽器カンテレ(ツィターに似た弦をはじいて音を出す楽器)の演奏をイメージしています。この部分にほとんどスラーがないのは、この撥弦楽器のイメージということです。テンポも少し落としてもいいと思います。子守歌にある気分を、さらにディープに進めていく感じで、前半とのメリハリをつけてみてください。
全体に長いスラーをたっぷりと歌うのが大切で、Bから主旋律が低い音域になりますので、バランスに気を付けてまとめると、うまくいくと思います。 (「季節の一曲」2020年1月~3月)
Season's Music ----- Past articles (2018~2019)
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♪ギロックの サラバンド♪ Sarabande (W.Gillock/ Nanase) (Flute&Piano) MOS No.18 ( 2001)
ピアノを習ったことのある方には、近年すっかりおなじみのギロック。
親しみやすさのなかに、情感あふれるセンスの良さが光る作品が多いこと、また技術的にとっつきやすいものが多いことで、とても人気がありますが、実はこれを本当にお洒落に演奏するのはなかなか難しいというのも、その特徴かもしれません。そう、演奏する人の音楽的な品性のようなものが出てしまうというのか、考えすぎて作りこむと全然面白くなくなってしまう音楽。実は手ごわいのだと思います。
この「サラバンド」は、本当に一息で書いたような、天からそのまま降りてきたような素直さと清冽な気分があって、何となくひざまずきたくなるような音楽です。
フルートの持っている、どこか現実を突き抜けて高みに上るような音のトーンが、この曲にぴったりだなと思ってこのアレンジを書きました。
フルート版も、考えすぎるとダメなようです。まるで即興演奏のように、さりげなく、自然に…これがギロック独特の世界なのかなと思います。
出版から18年経ち、あちこちで可愛がっていただいているこの「サラバンド」ですが、秋のしっとりした気分が、その時々の演奏の背中を押して、音楽に深みを添えてくれるような気がしています。(「季節の一曲」 2019年10~12月)
♪ハバネラ♪ Habanera (E.Chabrier/Nanase) (3Flutes) MOS No.56(2014)
19世紀フランスの作曲家シャブリエ による、南国の香りにみちた作品です。
ハバネラといえば、ビゼーの「カルメン」がおなじみですが、ハバネラとは、この時代スペインを中心に大流行したといわれるリズムの名前。ウン、タタッタ、と口ずさむと、思わず身体が動いてきそうです。中米のキューバをルーツに持ち、首都ハバナから取ったといわれる「ハバネラ」という名前。このリズムには、夏の海の景色が似合う気がします。
原曲はピアノで、本人によるオーケストラ版があります。オーケストラの印象が強い方々のなかには、このフルート三重奏をまとめるとき、何とかしてオーケストラっぽい重量感を、と苦心されるかもしれません。しかし、ここではオーケストラのサウンドの世界をちょっと横に置いて、フルート三本でしか出せない充実感、そう、1足す1足す1 が3にとどまらず、あたかもそれ以上に聞こえるような広がりを楽しんでいただけると、嬉しく思います。(ちょっと専門的な話ですが、倍音のマジックというべき相乗効果が、それを可能にしてくれるのです。)
そうは言っても現実にはフルート3本しかありません。その条件であか抜けた演奏にするには、こなれたアンサンブルの流れと、何といってもこのリズム、つまり、三連符と付点と二重付点をしっかり吹き分けるという技術が必要です。
何度も出てくるテーマの三連音符が、重くならずにさりげなく流れる感じに決まったら、きっと南国の夏のからりとした風が、素敵な夏を彩ってくれることでしょう。(「季節の一曲」2019年7~9月)
♪コメ・プリマ♪ Come Prima (Di Paola-Taccani/Nanase) (2Flutes) MOS No.53( 2013)
年度初めには、何かしら新たな出会いが訪れてきます。その新鮮な気持ちは、長く続くわけではありませんが、心の奥深くに残り、ふとしたきっかけでよみがえるもの…なんて思うのは、ある程度人生経験を積んでからのことなのかもしれませんが。
「はじめてのように」という意味のこの曲は、まさにそんな感じ。酸いも甘いもかみ分けてから、昔の恋人に再会した時の気持ちを歌った内容ですが、ぜひ若い方も想像を豊かに広げて、挑戦して頂きたいと思います。
歌の国イタリアの大衆音楽カンツォーネが、世界的にもてはやされたのは、もう半世紀以上前のことですが、この曲の印象的な美しいメロディーは、わずか1オクターブの音域でおさまっています。
フルート・アンサンブルでかっこよくキメるには?
三連のリズムで進んで行くロッカ・バラードの感じ、これを力まずに…というのが結構難しいかもしれませんが、このリズムをうまくつかむに尽きるかもしれません。
時には楽器を持たずに、リズムを口ずさんでみる練習方法もいいと思います。
楽譜のDから、付点のリズムが出てきますが、冒頭からこのリズムを潜在的に感じながら演奏すると、自然につながります。Eからの転調したところでは、少しデュナーミクを落としてエレガントにまとめるイメージです。
皆様の新たな世界が、幸多いことを願っています。(「季節の一曲」2019年4月~6月)
♪仮面舞踏会のワルツ♪ Waltz~Masquerade Suite No.1 (A.Khachaturian/ Nanase) (3Flutes) MOS No.59 (2015)
♪わらべうたファンタジー「ほたる」♪ Warabe-Uta Fantasy "Hotaru" (Nanase) (3Flutes) MOS No.26 (2004)
♪花祭り エル・ウマウアケーニョ♪ La fête des fleurs (El Humahuaqueño) (E.P.Zaldívar Jr./Nanase) (2Flutes) MOS No.62 (2016)
Season's Music ----- Past articles (2016~2017)
♪ペガサスの軌跡♪ The Tracks of Pegasus (Nanase) (4Flutes) MOS No.53 (2013)
♪センチメンタル・ヴォヤージュ♪ Sentimental Voyage (Nanase) (2Flutes) MOS No.59(2015)
♪ようこそ陽光の巴里へ♪ Welcome to Paris Smiling in the Sunshine (Nanase) (2Flutes) MOS No.56 (2014)
♪練習曲集より 作品25-9 「蝶々」♪ Etude Op.25-9 "Papillon" (F.Chopin/ Nanase) (3Flutes) MOS No.44 (2010)
♪カッチーニの アヴェ・マリア♪
ラスト2小節はていねいに、最後のドゥア(長調)の和音で天に昇るイメージ。
♪アデリータ♪
秋のしっとりした気分のなか、こんなギター作品からの編曲ものはいかがでしょう。
♪朱夏♪
♪オールド・ローズ~フェリシテ・パルマンティエ♪
バラの世界は本当に奥が深くて、次々と新しい品種が生み出されるなか、芳香が強く、バラの中のバラという気品をたたえたオールド・ローズ。栽培家の中にもファンが多いようですが、育てるのは少し難しいようです。古代のバラの系譜を引くというこの「フェリシテ・パルマンティエ」は、ルネサンス期の絵画に出てくるようなバラ。
♪愛の挨拶♪
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♪星の世界♪
What a Friend We Have in Jesus (Converse/ Nanase) (2Flutes) MOS No.47(2011)
木枯らしが吹く頃になると、夜の空の色が深くなり、星のまたたきも何となく心にしみる感じがします。街中のクリスマス・イルミネーションも年々進化し、我が国日本でも点灯時期が早くなったなぁと感じますが、そんなロマンティックな季節を、「星の世界」の二重奏で盛り上げてみるのはいかがでしょう。
アメリカの作曲家コンヴァースによる、よく知られたメロディーで、讃美歌でもおなじみですが、メロディーそのものには少しアメリカっぽい懐かしい気分があります。
教会などのよく響くスペースでは、少しテンポを遅めにするといいと思います。ラストのセカンド・パートの四分音符は、ひとつひとつ丁寧に吹いて、いろいろなイメージを広げてみてください。(季節の一曲 2015年12月~2016年1月より)
♪山の音楽家♪
Ich bin ein Musikante (Deutsches Volkslied/ Nanase) (2Flutes) MOS No.32 (2006)
♪ゴンドラのうた♪
Refrain du Gondlier (J.F.F.Burgmüller/ Nanase) (3Flutes) MOS No.38 (2008)
ブルグミュラーといえば、ピアノ学習者の必須レパートリーとして、よく知られていますが、この曲は有名な25の練習曲集ではなく、少し難易度が上がる18の練習曲集に入っています。この曲が、「貴婦人の乗馬」や「バラード」と同じ作曲者によるものだとは、ちょっと想像しにくいかもしれませんが、とてもエレガントな雰囲気があり、キラキラ光るさざ波が揺れるようなイメージが、フルートの音色にぴったりだと思ってこの編曲をまとめました。長いフレーズをたっぷりと歌うと、この曲の良さが出てきます。
また、楽譜のDから3番フルートにメロディーが来るところで、上のパートとのバランスを工夫すると、音楽が生き生きしてくると思います。夏の一日、水辺の気分で楽しんでくださればと思っています。(トップページ「季節の一曲」2015 7~8月より)
♪のばらに寄す♪
To a Wild Rose (E.MacDowell / Nanase) (2Flutes) MOS No.20 (2002)
春の花が次々に咲く季節には、アメリカの作曲家マクダウェルによる、ちょっと懐かしいアメリカの香りがするこの曲はいかがでしょう。
原曲は、「森のスケッチ」というピアノ小品の組曲のなかの、第一曲目に登場する作品ですから、とても印象に残るメロディーで、「森のスケッチ」といえばこれ、というような作者の狙い(勝負感覚?)が、伝わってくる気がします。
オーケストラに関心の高かったマクダウェルらしく、原曲は、少ない音のなかから多彩な響きを感じるタイプの曲。フルートでも、聴き終えた後に、何だかもっとたくさん音が鳴っていたような気がする、という印象に仕上げてくださると、嬉しいです。転調したあとの部分を、ちょっとメドレー風に、ストーリー感を持たせてまとめると、うまくいくと思います。(トップページ「季節の一曲」2015 5~6月 より)
♪大きな古時計♪
Grandfather's Clock (H.C.Work/Nanase) (2Flutes) MOS No.26 (2004)
春は、出会いと別れの季節。ちょっとセンチメンタルな気分になるこの曲で、新年度への素敵な門出を応援したいと思います。
背高のっぽの家具のような置時計。今では極めつけのアンティークですが、この原曲ができた1876年頃は、まさに産業革命が花開いた時代。機械が量産され始めた時期と考えられるから、この時計は当時ピッカピカの流行りものだったはずという、友人のアメリカ史研究家の話を聞いて、へぇ~と驚きました。誕生祝にそんな時計を贈られたおじいさん、何だか粋でおしゃれな人だったような気がしてきます。
フルートでのスタッカートの連打は、テンポ・キープが難しいもの。おじいさんの日々を刻むチクタク…の音を軽快に刻んでみて下さい。Meno Mossoのところは、演奏者それぞれの人生の味わいがにじみ出てくるといいなと、期待しています。(トップページ「季節の一曲」2015 3~4月より)
♪赤いサラファン♪
The Scarlet Sarafan(Russian song/Nanase) (2Flutes) MOS No.38 (2008)
一年で一番寒い季節には、ロシアの歌で美しい雪の大地の世界を想像してみませんか。雪深い地域の方なら、なおさら親しみを感じながら、イメージを広げられるかもしれませんね。
サラファンは、ジャンパースカートのような形の女性の民族服。娘の婚礼の晴れ着としての、特別なサラファンを縫うという歌の内容からは、冬の長い季節の、根気強い針仕事を想像してしまいます。
ロシア民謡独特の、テンポが揺れ動く前半は、まとめるのに難しく感じるかもしれませんが、音楽がうまく流れるように、工夫してみて下さい。転調したところは、一気に!心地よい冬のひと時でありますように…。(トップページ「季節の一曲」2015 1~2月より)
♪ラデツキー行進曲♪
Radetzky Marsch (J.Strauss/Nanase) (2Flutes) MOS No.50 (2012)
元日恒例のウィーン・フィルによる、ニューイヤー・コンサートのラストを締めくくる曲としてお馴染みですが、それをたった2本のフルートだけでやってしまおう、というわけです。
大編成のイメージがあるのに、まさか…?と思われるかもしれませんが、言ってみればミニチュアの世界。
休符やアーティキュレーションを丁寧に読み取って、「余白の妙」の世界を演出してみてくださいね!(トップページ「季節の一曲」2014 12月~2015 1月 より)


